2008年04月01日

チェリーブラッサム1

桜並木。
薄桃色の花びらたちが、開く時を今か今かと待っている。
木々は春へ向かって着々と準備をしているのに、吹きつける風はまだ冬なのだと主張しているかのように寒い。
オレはマフラーを口元まで引き上げる。
オレと同じような人が、オレの横を足早に通り過ぎていく。心なしか緊張した顔で。
それもそうか。今日は、この私立高校の入試の日なのだから。
そして、オレもこの高校を受けるひとり。…が、ぶっちゃけ、憂鬱。
なぜなら、オレはここへ進学する気はさらさらないから。
家から遠いし、お金はかかるし、友人もいない。
オレがここにいるのは無理矢理、というか半強制的。
担任からの命令、というより懇願だからだ。
受験料とか、当日の交通費とかこっちが出す!受けるだけ…受けるだけで良いんだ!
先生だって、お前が嫌なら無理は言いたくない。だけど、お前が行ってくれないと、オレは職員室にいられなくなるんだっ!校長先生とか他の先生に影でぐちぐちぐちぐち言われて……
そう泣きつかれたら断ることができない。しかたなくオレは担任のために犠牲になりに来た。
ここは県内でも有数の進学校。
そして、オレは自分で言うのもなんだが頭が良い。
だからって…まったく、たまったもんじゃない。少しはこっちの身にもなって欲しい。
めんどくさい……。
そう思いながらだらだらと歩いてたら、いきなり体に衝撃が来た。
「うわぁ!」
そして、下からなにやら可愛らしい声が聞こえた。
目線を下げると、いててとおしりをさすりながら人が立ち上がっていた。思わず手をのばす。
そこでやっと、オレは目の前の人物とぶつかったのだと気づいた。
「…ありがとう」
オレの手よりはるかに小さなやわらかな手が、オレの手と重なる。
そして、オレに向けられられた笑顔。
時間が止まった。
オレは、手を差し伸べた状態のまま動かなかった。…いや、動けなかった。
「…サクラなにやってんだよ。先、行くぞ」
「あ、待って!今、行く」
目の前の人物は、オレの後ろに向かって叫ぶ。
「あ、ごめんね。ちゃんと前見て無くて」
くりっとした綺麗な瞳にに見つめられて、言葉が出ない。
「…あっ、いや」
なんとかそれだけ、のどの奥から絞り出す。
そして、もう一度ごめんね、と言いながらその子は走り去った。

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2008年03月04日

教えてくれないのなら…D

「なんか、今日のあきちゃん変だよ?!」
なおもオレの皮膚に吸い付くあきちゃんを、オレは必死に引きはがそうとする。
「お前は、オレに夢見すぎ。今までは、お前の理想のオレ≠ナもいいと思ってたけど、もう我慢できない」
あきちゃんの真剣な表情にオレは、何も言えない。
「嫌いになった?オレのこと。…でも、オレはお前のことが好きだ」
…やっぱり、これは夢なのだろうか。
だってあきちゃんがこんなに饒舌なわけないもん。なんだかいつもより格好良く見えるし。それに…。
それに、あきちゃんはオレに何も教えてくれないんだ。
『好き』だなんて言葉、普段絶対言わないじゃん。
聞き慣れない言葉は、ただ甘く、熱くオレの体に染みわたっていく。
「…オレはお前のことが好きだから、したいって思うんだ。…いや?」
そんなこと言われたら、嫌だなんて言えない。
オレが何も言わないのを承諾と判断したのか、あきちゃんは勝手に行為を進めてくる。
夢だと思っても、どくどくとうるさいほどに鳴りひびく心臓の音と、だんだんと熱くなっていくオレの体が、これは現実だとオレに訴える。
いつもクールで、何事にも動じないどこか冷めたところのあるあきちゃんと。情熱的で、自分の欲に忠実にオレを求めてくれる熱いあきちゃん。
ほっとかれるのは寂しいし、かといってこれはやりすぎ。
どうしてあきちゃんは両極端なの?
普段のあきちゃんも今のあきちゃんも、大好きだけど…。
「でも、やっぱりなんか違っ……あっ!やぁ、あきちゃ…そんなとこ……っん!」

それから、あきちゃんとは前よりラブラブになった。
まぁ、そのだびにあきちゃんから激しく愛されちゃって、くたくたになるんだけどね。

好きな食べ物や、嫌いな食べ物。誕生日や趣味。
好きな人のことはなんでも知りたくなる。当たり前のこと。
オレの恋人は相変わらず何も教えてくれないけど、もうオレは不安になったりしない。
恋人からの『好き』っていう一言は魔法の言葉。文字にするとたった二文字だけど、それだけでオレはずっと側にいることができる。
声に出して話すことはやっぱりすっごく少ないけど、心はいつも繋がってる…つもりだから。
教えてくれないのなら。
側にいてこれから先、長い時間をかけてあなたの事をいっぱい知ってみせるからね。
覚悟しておいてよ?あきちゃん。
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2008年02月15日

教えてくれないのなら…C

唇が離れたあとも、どこかまだ意識がはっきりしない。
なんだか自分の体じゃないみたいに、ふわふわしている。
あきちゃんが何かごそごそやっているけど、それもよく分からない。
「……っ!」
ぴりっとした痛みが首筋に走り、オレの体に感覚が戻る。
何が起きたのか確認しようとして、オレは初めてシャツのボタンがすべて外されていることに気づいた。
そして、いつの間にか視線の先には蛍光灯が。
「あ、れ…?」
オレが首をかしげると、オレの上にいるあきちゃんがオレを見る。
どうした?
あきちゃんはオレに視線だけで問いかける。
だけど、オレも今同じ言葉をあきちゃんに言いたい。
どうした!?
なんで、オレはあきちゃんに押し倒されるような格好になってるの?
えーっと。とりあえず、こうなる前の事を考えてみよう。
まず、あきちゃんの態度が冷たくて、Let's誘惑大作戦ー!!をしたらあきちゃんが我慢できないって言って…今に至るのか?
あきちゃんは我慢できないって言ってたから、オレとこっ、こうゆうことしたいって思ってて。…あぁ、だから態度が冷たかったのか。きっと、オレのこと気遣って必死に耐えてくれたんだ。愛されてるね、オレって。
だけど、オレがLet's誘惑大作戦ー!!なんてやるから、たがが外れた……ってことか。
…………ってオレのばかぁー!!
あきちゃんを煽ってどうすんのさっ!
オレはキスしたことや、その、過去に何回か女の子としちゃったこともあるけど、あきちゃんとはそうゆうの一切やったことなくて。
いっ嫌なわけじゃないよ!?
オレだって健全な男の子だし、好きな人ともっと深く繋がりたいと思うけど…。
こうゆうのってもっと、ムードとか心の準備とかいるじゃん!
いちを処女だし……ねぇ?
「あ、あきちゃん。…何、やってるの?」
オレは混乱した頭のまま、とりあえずあきちゃんへの説得を試みた。
「……キスマーク」
それだけ言って、オレの首筋から胸まで点々とつけられた、赤い痕を指でなぞられる。
「キスマークって、エロい…。見てるだけで、そそられる」
ぎゃぁぁぁぁー!!
あきちゃん、何言ってるんだよ!?
普段のクールですましたあきちゃんは、今はどこにもいない。
今オレの目の前には、欲深い男≠フあきちゃんがいる。
たしかに甘々な空気が欲しいとも言ったし、いちゃちゃべたべたしたいって思ってたけど、なんか違う。さっきまでの楽しかった想像とは、全然違ぁう!!
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2008年02月03日

教えてくれないのなら…B

オレはあきちゃんの顔が見れずにうつむいてしまう。
すると頭の上から深いため息が聞こえてきた。
無意識のうちに体がビクッとはねる。
どうしよう、別れるなんて言われたら……。
オレの頭の中はそんな想像でいっぱいだった。
だけど、次にあきちゃんがオレにしたことはオレが想像していたどんなことでも無かった。
「え……?」
気がつくとオレは大好きなあきちゃんの腕の中にいた。
えーっと、今の状況が読めないんだけど?
何このおいしい状況!?
あきちゃんからこんなに熱い抱擁をもらったことなんて一度もない。
でも、オレはどうしてこんなことになったのか混乱して、この状況を素直に喜ぶことができないでいた。
「あきちゃん…?」
とりあえずそっと名前を呼ぶと、頭を優しくなでられた。
「…その顔反則。せっかく我慢してたのに。……我慢できなくなるだろ?」
………………………………今、なんですと?

ガマンデキナクナルダロ

がまんできなくなるだろ 

我慢できなくなるだろ……我慢って何!?
オレの頭の中はあきちゃんの一言でよけいにぐちゃぐちゃになった。
「…もう、どうなっても知らないからな」
あきちゃんがオレの耳元で甘くささやく。
いつもとは違う、低く熱い声でささやかれると体の奥がゾクリとあわだった。
「あきちゃ……んっ!!」
オレが呼ぼうとした名前は、その人の口の中へ消えていった。
言葉を紡ごうと開いた口の隙間から、熱いものが強引に入ってくる。
それがあきちゃんの舌だと理解するよりも早く、オレの口内はあきちゃんに犯されていった。
こんなにも熱くて、激しいキスはしたことが無かった。
だから、オレはどうすることもできなくて……。
無意識に逃げようとする舌を絡め取られ、口の中を散々味わわれた。
混ざり合った唾液は飲み込むことが追いつかず、会わせた口の隙間からあふれ出す。
歯列をなぞられ、口蓋をくすぐられる。
ふれあう舌は何処までも熱く、ざらりとした感触に頭が真っ白にまり、体がしびれていく。
もう、何もかもどうでもいいや。もう、何も考えられない。
それぐらいあきちゃんのキスは気持ちよかった。
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2008年01月29日

教えてくれないのなら…A

「ねぇ、あきちゃん」
オレはあきちゃんの方を向いて正座をする。声も極力真剣に聞こえるよう気を付けてみる。
「……」
無視…。
まあ、だいたい想像できたけどね…。
オレはめげずにあきちゃんに話しかける。
「…オレの事嫌い?」
「……嫌いならデートなんてしない」
そう言われても。相変わらずあきちゃんの目は本に向いてるし。
あきちゃんは何も教えてくれない。
好き≠チて言葉さえもあきちゃんは教えてくれないんだね。
あきちゃんはベットにもたれ、片膝を立てて少し大きめの本を両手でもってページを捲っている。
世界一格好良くて、世界一大好きな俺の恋人。
ただ一言。嘘でも良いから好き≠ニ言ってくれるだけでオレは安心できるのに……。
ようし。こうなったら……。

「……どうした」
オレは本とあきちゃんの間へ下から潜り込み、首にぎゅっと抱きつく。
こんなにもあきちゃんとふれあった事なんて今まで無かった。
少しだけオレより体温の低い体は、オレの心臓が壊れそうなのを強調している。きっとあきちゃんにもこの鼓動が伝わっているだろう。
「ねぇ、オレ達付き合ってるんだよね…。だったら、二人っきりの時くらいもっとオレにかまって」
Let's誘惑大作戦ー!!
あきちゃんがオレにかまってくれないのなら、かまわざるをえない状況にしようと考えた訳ですよ。さっすがオレ!
恋人が見せる甘えた仕草に、あきちゃんはどっきとするわけですよ。そして、見つめ合う2人。だんだんと鼓動が早くなってきて…。
うふふ…。オレは自分の想像に思わず笑いがこぼれそうになった。
おっといけない。今はまだ我慢、我慢。
「……かまってるつもりだけど」
これでかまっているのなら、オレ達のこれからが心配になる。
「ぜんぜん、たりない!!2人っきりの時くらい、オレだけをずっと見ててよ」
オレは甘えた声でもっとあきちゃんにしがみつく。
「…オレをほっとかないで」
オレは必殺うるうる上目遣いをした。
どうだっ!!
あきちゃんは、オレが自分の持っている最大の色気(?)を振りまいているにもかかわらず反応はさっきと変わらない。
「……さみしいのか」
そして、まるで子どもをあやすように頭をなでられる。
オレはその言葉にこくん、と首を縦にふった。
そんなあきちゃんにオレの心はみるみるしぼんでいく。さっきまでの楽しかった想像とは全然違う。
…あきちゃん。オレに飽きちゃったのかなぁ。
もうオレのことどうでもいいの?
だから、オレに対しての反応が薄いの?
怒りの次は悲しみが襲ってくる。

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ニックネーム 朱名 at 00:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2008年01月27日

教えてくれないのなら…@

「ねぇ、好きな食べ物は何?」
「…特にない」
「じゃあ、嫌いな食べ物!」
「…多分無い」

「あ、誕生日いつ?一緒にお祝いしようよ!」
「…先月」

「趣味とかってある?」
「…別に」

「何読んでるの?」
「本」
「それおもしろい?」
「あぁ」
「僕よりも?」
(チラッと上目遣いで)
「あぁ」
(ひどっ!!)

……以上デート開始から一時間半で恋人とした会話のすべて。あまりにもそっけないうえに、酷く冷たい。
デートはいつも決まって恋人の家。
べ、べつに相手が外へ誘っても出てきてくれないとかじゃないし、オレが勝手に押し掛けてるわけでもないからねっ!?
…ねぇ、あきちゃん。オレ達付き合ってるんだよね?
あきちゃんこと吉澤彰(よしざわ・あきら)に心の中だけで問いかける。
オレ達は幼なじみで、小さい頃から一緒だった。
だから、オレはあきちゃんがどんな女の子が好きなのか知ってるし、昔から女の子に人気がある事も知っている。…男に興味が無いことも。
どうしてオレと付き合っているのか、本当にオレ達は付き合っているのか、未だに分からないくらい。
オレは、あきちゃんがずっと好きだった。
小さい頃はあきちゃんと結婚するんだ、ってずっと言ってたっけ。
でも、小学生になって男の子同士は結婚することができないと知ってすごく落ち込んだ。
ま、なんだかんだあったけど、今は夢見ていたあきちゃんと付き合うことができてるんだから人生何が起こるか分からない。
なのに……。
なんなのだろうか、この空気。やはり、現実はそうあまくないのか。
男同士だから、普通の恋人みたいにあま〜い空気は流れにくいのかもしれない。だけど、これはあまりにもひどい。
せっかく今は二人っきりなのに。
こんな時くらいもっと甘い空気が流れても良いじゃん!!
そんなそっけない態度じゃ、ベタベタイチャイチャしたくもなるわ!!
何故か殺意がわいてきた。
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ニックネーム 朱名 at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2007年12月26日

タイカノカイシン37

〜エピローグ〜
雪が降る。
鐘が鳴る。
聖なる夜が始まる。
オレが一緒にいたいと思うのはあの人だけ。
チキンやケーキたくさんの豪華な料理はいらない。
家族や、友達とのパーティーはなくていい。
恋人達の甘い語らい、なんて雰囲気オレには似合わない。
教会で祈っても神様の言葉よりも聞きたいものがある。
こんなものたちよりもオレには欲しい物が見つかった。

雪はオレを隠してはくれず、鐘の音はオレを消してくれない。
汚れた体のままあの人に会いにひたすら道を進んでいく。
後戻りすることがあるかもしれない、振り返ることがあるかもしれない。
風は相変わらずオレに冷たく吹き付けるから。
それが、無性に怖くて逃げ出したくなってしまう。だけど、その風を逃げ出さないで受け止めていきたい。その先にはかならず、見せかけじゃない本当の何かがあるから。

ここは春が来ない冬。ずっとそう思って生きてきた。だけど、それは違う。春が来ない冬なんてないんだから。ゆっくりと、でも確実に季節は移り変わっていく。ただ、冷たい風が吹いて、くじけそうになって何もかも捨ててしまいそうになる時がある。
そんなときは、ねぇ2人で一緒に歩いていこう。2人ならなにも怖いことはないよ。
聖なる夜じゃなくてもいい。世界中に祝福されなくてもいい。ただ、あの人がオレを必要としてくれればそれで。
ただ、あの人が一緒にいてくれるだけで。
ただ、あの人を愛することができるだけで。
オレの心は今ゆっくりと解けだして、春の訪れを迎えようとしていた。
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ニックネーム 朱名 at 21:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

タイカノカイシン36

「それからしばらくして、鏡が病院に運ばれたって聞いた」
「病院?」
「道路が凍っていて、スリップした車が鏡に突っ込んでいったらしい」
その時のことを思い出しているのか誠は苦しそうな顔をしている。
「病院に駆けつけたときはもう・・・。その時は、鏡を恨んだよ。鏡が与えてくれた光を、鏡が奪っていったってね。でも、一番許せないのは自分だった」
どうして、あの時鏡の家まで送って行かなかったんだろう。
どうして、もっと早く自分の気持ちに気づかなかったんだろう。
オレは鏡にまだなにも伝えてないのに。鏡になにもしてあげることができなかった。それから、また世界は灰色に染まった。
鏡の葬式の時、皆川鏡子≠チて書いてあるのを見て変な気分になった。
鏡子って言うんだ・・・。
オレは鏡の名前さえ正確に知らなかった。
じゃあ、オレは鏡のなにを知っているんだろう。
そう考えて、切なくて、やるせなくて・・・。
鏡との最後の別れなのに、まるで知らない人の葬式にでている気分だった。
だけど、時間はオレを置いてどんどん進む。
相変わらず世界は灰色。オレは仕事をして、食事をし、眠って、また仕事をするという毎日同じ生活を送ってきた。
生きているかも分からない生活。
そんな時。お前に会った。
最初は鏡に似てたから声をかけたんだ。だけど、全然違った。お前の瞳はすごく悲しい光を宿していた。どことなく今の自分と似ていて。そんなお前を放ってはおけなかった。
お前とすごすうちに、だんだん鏡のことを考える時間が減った。
あんなにもオレを支配していたの、お前はそれをいとも簡単に解き放してくれた。
そして、お前がオレから離れようとしたとき。オレは、もうお前しか見てなかった。
お前を失いたくないと、本気で思った。だから夢中でお前を捜した。
「お前を見つけたときは、嬉しくて、安心して。オレは、お前がいないとだめなんだって。お前のことを、愛してるんだって分かった」
「ん・・・」
オレは瞳に溜まった水を見られないように誠の胸に、顔をすり寄せた。

「なあ・・・オレも聞いても、いいか?」
しばらくして誠が言いにくそうに口を開いた。
「なに?」
「お前の・・・・・・本当の名前を教えて欲しいんだ」
誠にとかされた心は重く、様々なものがオレの上にのしかかる。
今までのオレは何も必要としていなかった。名前なんて、そんなもの。必要なかった。
・・・でも、誠が知りたいと言うのなら。オレはすべてを誠に伝えるから。だから、たとえどんなオレでも受け入れて。
「大海(たいか)。橘大海。それがオレの名前」
久しぶりに自分の名前を、口に出す。
ずいぶん使って無かったはずなのに、オレの耳にすっとなじむ。
もう言うことはないと思っていた名前。
「良い名前だな」
「本当?」
誠に褒められて、これで本当の自分を知ってもらえたような気がして、この名前も捨てたもんじゃないなと思った。
「誠・・・」
「ん?」
「オレは、絶対誠から離れないから」
それだけ伝えたくて。
「だから、安心して・・・もっとオレを好きになって」
重ね合わさった肌の温かさがオレの心を溶かしてゆく。
ぎゅっと強く抱きしめられるが、痛いわけではなく、しっくりとオレの体になじむ。
「あぁ、もう絶対手放さないからな。・・・・・・愛してる」
オレは一人で生きていけなくても良い。望むのはただ一つ。
「ん、オレも。愛してる」
誠をずっと愛し続けること。
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ニックネーム 朱名 at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

2007年12月25日

タイカノカイシン35

あの日までは、いつもの日常だったんだ。
オレの周りの環境は急速に変わっていった。
人と話すことが、苦手だったのに、今では人と自然に会話ができる。そして、その中で楽しさやうれしさ、時には悲しみや怒りを感じることができるようになった。
「誠くん!遅刻。もう、みんな来てるよ」
そして鏡がオレもことを誠くん≠ニ呼び始めたころ。
オレは、鏡に連れられて外にでることが多くなった。
その日も何人かの友達と、遊んでたんだ。オレはみんなと進んでわいわいするほうではなかったけど、それでもみんなと同じ時間を過ごすことが楽しかった。
日がかたむいて、一人。また一人、と帰っていって、いつの間にかオレと鏡だけになっていた。オレ達は、帰る方向が同じだった。
帰り道。とりとめもない話をしていた。言葉がとぎれても、それが居心地悪いとは思わなかった。いつの間にか鏡と分かれる道に出ていたけど、なんとなく離れがたくて・・・。2人ともしばらく動かなかった。
「・・・私、誠くんのこと好きなんだ」
鏡がいきなり口を開いた。
でも、なぜかオレは冷静で。その言葉がすとん、と体に入ってきた。
「あぁ・・・」
オレはそれだけ言って、また見つめ合って。
鏡のあの大きな瞳が、近付いてきて。それが瞼の裏に隠れたと思ったら・・・・・・オレ達は唇を重ねていた。
一瞬、鏡の熱を感じたと思ったら、それはすぐに離れていって。
照れているのか、オレと目を合わそうとはしない。
「・・・じゃあ、ね。また、明日」
そのまま鏡は、オレに背を向けて歩き出す。
少しだけ見えた鏡の顔がほんのりと赤く染まっていたのは、ネオンのせいだけではないだろう。
いつからだろう。オレのなかでこんなにも鏡の存在が大きくなっていたのは。
いつからだろう。オレの生活のなかでこんなにも鏡と会う時間が増えていたのは。
しばらく、鏡の背中を見つめていたが、やがてオレも歩き出した。鏡とは別の道を。
そして、やっと嬉しさがこみ上げ、オレの気持ちにも気づいた。
オレは鏡のことが好きだ。
明日、学校で鏡に会ったらまず始めにオレの気持ちを伝えよう。
鏡とオレなら、絶対うまくいく。
根拠のない自信がわき上がり、頭のなかはオレの言葉にとびっきりの笑顔で答えてくれる鏡の姿ばかりが浮かんだ。
その日は雪が降っていたが、オレの心は春を迎えたようだった。続きを読む
ニックネーム 朱名 at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説

タイカノカイシン34

ある時。いつ、どんな場所だったかも覚えていない。
「・・・どうしてオレにかまうんだ?」
オレはふと鏡に問いかけてみた。初めて、正面から見た鏡は、オレが話した事に驚いているようで、開かれた大きな瞳が印象的だった。
驚いた表情をしていたのは一瞬で、すぐに笑顔になる。
「友達になりたいから」
当たり前だと言うように答えられた言葉は、オレの中では当たり前なんかじゃなくて。
「だって、宗野くんの笑った顔見たことないから。見てみたいって思ったの」
そう言って笑う彼女が、今までモノクロだった自分の世界に光をくれた。
それから、少しずつ。本当に少しずつ、鏡と話をするようになった。
相変わらずオレから、話しかけることはなかったけど、その分鏡が話した。あいさつや今日の天気・・・。そんな何気ない会話が、オレを変えてくれた。
鏡を通して友達と呼べるものもできた。
前はあんなにうざったかったのに、今では人とつるんでいることも楽しいと思えるようになった。
鏡と出会ってオレの世界は変わったんだ。
気がつくと、みんなの中で笑っていることが、当たり前になっていた。

そして、高校三年生の冬。
本当に突然。なんの前置きもなく、鏡はオレの前からいなくなった。
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ニックネーム 朱名 at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説