薄桃色の花びらたちが、開く時を今か今かと待っている。
木々は春へ向かって着々と準備をしているのに、吹きつける風はまだ冬なのだと主張しているかのように寒い。
オレはマフラーを口元まで引き上げる。
オレと同じような人が、オレの横を足早に通り過ぎていく。心なしか緊張した顔で。
それもそうか。今日は、この私立高校の入試の日なのだから。
そして、オレもこの高校を受けるひとり。…が、ぶっちゃけ、憂鬱。
なぜなら、オレはここへ進学する気はさらさらないから。
家から遠いし、お金はかかるし、友人もいない。
オレがここにいるのは無理矢理、というか半強制的。
担任からの命令、というより懇願だからだ。
受験料とか、当日の交通費とかこっちが出す!受けるだけ…受けるだけで良いんだ!
先生だって、お前が嫌なら無理は言いたくない。だけど、お前が行ってくれないと、オレは職員室にいられなくなるんだっ!校長先生とか他の先生に影でぐちぐちぐちぐち言われて……
そう泣きつかれたら断ることができない。しかたなくオレは担任のために犠牲になりに来た。
ここは県内でも有数の進学校。
そして、オレは自分で言うのもなんだが頭が良い。
だからって…まったく、たまったもんじゃない。少しはこっちの身にもなって欲しい。
めんどくさい……。
そう思いながらだらだらと歩いてたら、いきなり体に衝撃が来た。
「うわぁ!」
そして、下からなにやら可愛らしい声が聞こえた。
目線を下げると、いててとおしりをさすりながら人が立ち上がっていた。思わず手をのばす。
そこでやっと、オレは目の前の人物とぶつかったのだと気づいた。
「…ありがとう」
オレの手よりはるかに小さなやわらかな手が、オレの手と重なる。
そして、オレに向けられられた笑顔。
時間が止まった。
オレは、手を差し伸べた状態のまま動かなかった。…いや、動けなかった。
「…サクラなにやってんだよ。先、行くぞ」
「あ、待って!今、行く」
目の前の人物は、オレの後ろに向かって叫ぶ。
「あ、ごめんね。ちゃんと前見て無くて」
くりっとした綺麗な瞳にに見つめられて、言葉が出ない。
「…あっ、いや」
なんとかそれだけ、のどの奥から絞り出す。
そして、もう一度ごめんね、と言いながらその子は走り去った。
続きを読む
![Powered by 269g[ブログ・ジー]](http://269g.jp/img/269g.gif)